AI導入の前に、まずデータ整理から。中小企業が知っておきたい「何を集め、どう活用するか」

2026年11月6日、株式会社Merが「日本企業のデータ整備とAI活用に関する実態調査」の結果を発表しました。
調査によると、自社の業務データが「整備されている」と回答した人は79.1%。一方、業務データに「特に問題がない」と回答した人は、わずか3.7%でした。
多くの企業がデータを整備していると認識しながらも、実際には何らかの課題を抱えていることがうかがえます。
ただし、今回の調査対象は、従業員100人以上の企業で、すでに生成AIを業務利用している責任者・担当者541人です。
地方の小規模事業者や零細企業の実態を、そのまま表すものではありません。
実際、私たちが地方の中小企業のWeb制作やEC運営、IT活用を支援する中では、データが整備されているかどうか以前に、
- そもそも、データをどう準備すればよいかわからない
- 何のデータを集めればよいのかわからない
- 集めたデータをどう活用すればよいのかわからない
といった声を聞くことがあります。
今回は、こうした企業の立場から、AI活用に向けて、何を目的に、どのようなデータを準備すればよいのかを考えてみたいと思います。
企業の約8割が「データ整備済み」。それでも課題が残る理由
株式会社Merの調査では、データ整備の状況について、次のような結果が報告されています。
- 79.1%が、業務データは整備されていると認識
- データに問題がないと回答したのは3.7%
- ほぼすべての業務データを顧客単位で横断的に扱えるとの回答は10.0%
- AI活用で十分な成果を実感しているのは26.2%
この結果からは、データを保存・管理していることと、そのデータをAIや業務改善に活用できることの間に、隔たりがあると考えられます。
例えば、営業部門には顧客リストがあり、経理部門には請求データ、EC担当者には注文履歴があるとします。
それぞれの部門では情報を管理できていても、データの形式や顧客の識別方法が異なっていれば、企業全体で分析することは難しくなります。
AIが高度になっても、参照するデータが不足していたり、誤っていたりすれば、期待した結果を得られるとは限りません。
AIの性能だけでなく、AIに渡す情報の質も重要なのです。
小規模事業者は、データ活用のスタート地点が異なる
今回の調査結果を考えるうえで、もう一つ注目したいのが企業規模による違いです。
中小企業庁の「2025年版小規模企業白書」では、小規模事業者がデジタル化を進める際には、人材や資金などの経営資源に制約があるため、必要最小限の取り組みから始めることの重要性が示されています。
また、デジタルツールを導入するだけでなく、業務効率化やデータ分析に活用することが、具体的な成果につながる可能性も指摘されています。
実際、小規模な企業では、専任のIT担当者がいないことも珍しくありません。
受注は電話やFAX、売上管理はExcel、顧客情報は紙の台帳という企業もあるでしょう。
また、会計ソフトや販売管理システムを使っていても、日々の処理に利用するだけで、蓄積されたデータを分析したことがない企業もあります。
こうした企業にとって、いきなり高度なAIシステムやデータ分析基盤を導入することが、最適な方法とは限りません。
大切なのは、現在の業務で何に困っているのかを整理し、身近な情報から活用を始めることです。
データを集める前に「何を改善したいか」を考える
AI活用を考えるとき、「どんなデータを集めればよいですか?」という疑問が出てくると思います。
しかし、その前に考えたいことがあります。
それは、「集めたデータを使って、何を改善したいのか」という目的です。
例えば、次のような課題があるとします。
| 改善したいこと | 集めたいデータ | 活用例 |
|---|---|---|
| 売れ筋商品を把握したい | 商品別の販売数量・売上・販売日 | 商品別・月別の売上分析 |
| 在庫切れを減らしたい | 販売数量・現在庫・入荷日・発注リードタイム | 発注時期や発注数量の検討 |
| 問い合わせを減らしたい | 問い合わせ内容・件数・対応履歴 | よくある質問の抽出、FAQの改善 |
| リピーターを増やしたい | 購入日・購入回数・購入商品 | リピート傾向の分析 |
| 営業活動を改善したい | 商談履歴・見積金額・受注結果 | 失注理由の分析、営業活動の見直し |
すべてのデータを最初から集める必要はありません。
まずは一つの課題を決め、その課題を把握するために必要な情報だけを集めてみる。
それだけでも、業務改善の第一歩になります。
なお、これらの分析には必ずしも生成AIが必要なわけではありません。Excelの集計やグラフで十分な場合もあります。
AIは、集計結果から傾向を読み取ったり、複数の情報を整理したり、改善案を考えたりする場面で活用を検討するとよいでしょう。
具体例① Shopifyの注文データを活用する
Shopifyを使ったECサイトでは、日々の注文に関するさまざまなデータが蓄積されています。
例えば、次のような情報です。
- 注文日時
- 商品名・商品ID
- 購入数量・販売金額
- 割引金額
- 配送先の地域
- 購入履歴
- 商品ごとの在庫情報
これらは、管理画面のレポート機能やCSVエクスポートなどを通じて確認・取得できます。利用できるレポートは契約プランなどによって異なります。
例えば「どの商品を重点的に販売すべきか」を考えたい場合、まずは過去1年間の商品別売上データを整理します。
そのデータから、売上上位の商品、季節ごとの販売傾向、購入数量の変化などを分析できます。
さらにAIを使えば、分析結果の要約や、販売促進施策のアイデア出しを支援させることも考えられます。
ただし、AIが提案した販促施策が必ず売上増加につながるわけではありません。実際の施策を試し、結果を検証することが重要です。
具体例② futureshopのデータを活用する
futureshopを利用しているECサイトでも、受注データや会員情報、商品情報などを取得・管理できます。
例えば、次のような分析が考えられます。
季節ごとに売れる商品を把握する
過去の受注データを月別・商品別に整理することで、季節による販売傾向を確認できます。
食品ECであれば、お中元やお歳暮、年末年始など、贈答需要の変化を分析することも考えられます。
リピート購入の傾向を調べる
会員の購入履歴から、初回購入後の再購入までの期間や、リピートされやすい商品を調べます。
その結果を参考に、メール配信のタイミングや販促内容を検討できます。
問い合わせ内容と注文状況を照らし合わせる
例えば、配送日時に関する問い合わせが多い場合、注文画面や案内メールの説明に改善の余地があるかもしれません。
ただし、これらの分析には、注文データに加えて問い合わせ履歴などの整備が必要になる場合があります。
また、会員情報や購入履歴を扱う際は、個人情報の取り扱いに十分な注意が必要です。
具体例③ Excelのデータから始める
AI活用に向けたデータ整理は、特別なシステムを導入しなくても始められます。
例えば、Excelで売上管理をしている企業であれば、そのファイルを見直すだけでも大きな一歩です。
次のような形式で売上を記録しているとします。
| 日付 | 顧客ID | 商品名 | 数量 | 単価 | 売上金額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 11/1 | C001 | 商品A | 3 | 2,000円 | 6,000円 |
| 11/2 | C002 | 商品B | 2 | 3,000円 | 6,000円 |
| 11/3 | C001 | 商品A | 1 | 2,000円 | 2,000円 |
このように整理されていれば、商品別・顧客別・月別の売上集計がしやすくなります。
一方、次のような状態では分析が難しくなります。
- 商品名の表記が担当者によって異なる
- 一つのセルに複数の情報が入力されている
- 日付や金額の入力形式が統一されていない
- 顧客名だけで管理しており、同姓同名などを区別できない
- 担当者ごとに異なるファイルを使っている
大切なのは、Excelを使っていることが問題なのではなく、後から集計・分析できる形で記録されているかどうかです。
最初はExcelでも十分です。日々の業務の中で無理なく記録を続けられる仕組みを考えることが重要です。
具体例④ 販売管理システムとECデータをつなぐ
ECサイトと実店舗、卸売など、複数の販売経路を持つ企業では、データの管理がさらに複雑になります。
例えば、Shopifyでの注文、電話で受けた卸売注文、実店舗での売上を、それぞれ別のシステムで管理しているケースです。
この場合、ECサイトのデータだけを分析しても、企業全体の販売状況は把握できません。
そこで重要になるのが、商品コードや顧客IDなどの共通ルールです。
例えば、同じ商品が次のように登録されているとします。
- Shopify:商品A-100
- 販売管理システム:A100
- Excel:商品A
これらが同じ商品であることを対応づけられれば、販売経路を横断した分析が可能になります。
ただし、単に商品コードを一致させるだけでは十分でない場合もあります。
セット商品やバリエーション、返品、キャンセル、税区分など、各システムのデータの意味や計算方法も整理する必要があります。
そのうえで、販売経路ごとの売上や在庫状況を集計すれば、仕入れや販売計画の検討に役立てられます。
AIによる高度な分析を始める前に、こうした基本的なデータの対応関係を整えることが重要です。
データ整理と同じくらい重要な「業務設計」
もう一つ、AI導入前に考えておきたいのが業務の流れです。
例えば、毎月の売上分析を自動化したい場合を考えてみましょう。
現在の業務が、
- ECサイトからCSVをダウンロードする
- Excelで必要な項目を集計する
- 販売管理システムの数字と照合する
- 担当者がレポートを作成する
- 経営者が確認し、次の施策を判断する
という流れになっているとします。
この場合、単純に「AIで売上レポートを作成する」だけでは、業務全体の効率化にはつながらないかもしれません。
CSVの取得、データの加工、数字の照合など、前後の作業にも時間がかかっているからです。
まずは現在の業務を整理し、どの作業を自動化し、どこで人間が確認するのかを決める必要があります。
例えば、
- データ取得:システム連携や定期的なCSV出力
- データ集計:Excelや集計プログラム
- 傾向の分析:AIによる要約や異常値の確認支援
- 最終判断:担当者や経営者
といった役割分担です。
AIにすべてを任せるのではなく、AIが役立つ部分を見極めることが重要です。
中小企業がデータ活用を始めるための3つのステップ
ここまで紹介した内容を、実際の取り組みに落とし込むと、次の3つのステップが考えられます。
STEP 1:改善したい業務を一つ決める
最初から会社全体のデータを整理しようとする必要はありません。
例えば、「毎月の売上集計に時間がかかる」「売れ筋商品を把握したい」「問い合わせ対応を減らしたい」など、身近な課題を一つ選びます。
STEP 2:必要なデータを確認し、整理する
現在利用しているExcelや業務システムに、必要な情報があるかを確認します。
すでにデータがある場合は、項目や形式を整えます。
不足している場合は、日々の業務の中で無理なく記録できる方法を考えます。
STEP 3:小さく試して、改善を続ける
整理したデータを使って、まずは簡単な集計や分析を試します。
必要に応じてAIを活用し、結果を人間が確認します。
例えば、毎月数時間かかっていた集計作業がどれくらい短縮できたか、分析によって新しい気づきが得られたかなどを確認します。
成果が見えたら、対象業務を少しずつ広げていくとよいでしょう。
AIにデータを渡す際の注意点
AI活用では、データの整備だけでなく、安全な取り扱いも重要です。
特に、顧客情報や注文履歴、売上データなどを外部の生成AIサービスへ入力する場合は注意が必要です。
例えば、個人を特定できる氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどは、分析の目的によっては不要な場合があります。
必要な情報だけを抽出し、個人情報を除いた集計データや匿名化・仮名化したデータを利用することを検討しましょう。
なお、仮名化しただけでは個人情報に該当しなくなるとは限りません。
企業として利用するAIサービスの契約条件、データの保存・学習利用に関する設定、アクセス権限なども確認する必要があります。
AI導入支援は、データを集めるところから始まる
今回の調査結果を見て、企業の規模やデジタル化の進み具合によって、AI活用の課題は大きく異なると改めて感じました。
一定規模以上の企業では、すでにデータを整備しているものの、部門間で連携できない、AIにうまく活用できないといった課題があるのでしょう。
一方、私たちが日頃から接している地方の中小企業や小規模事業者では、もっと手前の段階で悩んでいるケースが少なくありません。
何の情報を集めればよいのか、どこに保存すればよいのか、集めたデータをどう経営に役立てればよいのか。
そうした基本的なところから、一緒に考える必要があると感じています。
また、AIを導入したいという相談であっても、実際に業務を確認してみると、Excelの管理方法を見直したり、ECサイトと販売管理システムのデータを整理したりする方が、先に取り組むべき課題である場合もあります。
最新のAIを導入すれば、すべての問題が解決するわけではありません。
しかし、これまで十分に活用されてこなかったデータを整理することで、日々の業務を改善したり、新しい販売施策を考えたりするきっかけは生まれます。
大切なのは、AIを導入することそのものではなく、自社の課題を解決するためにデータと技術を活用することです。
そして小規模な企業ほど、最初から大きな仕組みを作ろうとせず、身近な業務から少しずつ改善を積み重ねることが重要だと考えています。
当社では、Web制作やEC運営支援、AI導入・活用支援に取り組む中で、こうしたデータ整理や業務の見直しも含め、企業それぞれの状況に合ったIT活用を考えていきたいと思います。
参考情報
- 株式会社Mer:Japan AI Operations Report 2026 Autumn(2026年11月6日)
- 株式会社Mer:日本企業のデータ整備とAI活用に関する実態調査
- 中小企業庁:2025年版小規模企業白書 第5節 デジタル化・DX
- 中小企業庁:2025年版小規模企業白書 小規模事業者の経営力の向上
- IPA:DX動向2025
- Shopifyヘルプセンター
- futureshop公式サポート
※本記事は2026年11月6日時点の公開情報をもとに作成しています。Shopify・futureshop・Excel・販売管理システムの活用例は、特定企業の導入実績ではなく、一般的な業務を想定したものです。
投稿日:2026年11月6日