AIチャットボットは「どこで使うか」が重要。SBI証券の事例から考える顧客体験の改善

2026年11月2日、SBI証券とAI開発企業Ridge-i(リッジアイ)は、共同開発した生成AIチャットサービス「SBI証券チャットサポート」を、10月30日から提供開始したと発表しました。

チャットボット自体は、すでに多くの企業のWebサイトやECサイトで利用されており、決して目新しい技術ではありません。

しかし、今回の取り組みで注目したいのは、顧客が困っている場面に着目し、AIによる案内から有人対応までを一連のサポートとして設計していることです。

AIを導入すること自体よりも、「どこで、どのように使うか」が重要になっていることを示す事例といえそうです。

SBI証券が着目した「ログインできない」という困りごと

SBI証券が今回、優先的に対応したのはログインに関する問い合わせです。

金融サービスでは、セキュリティ対策の強化が進む一方、認証方法の変更や追加の確認手続きなどによって、利用者がログイン時に戸惑う場面もあります。

ログインできなければ、その先のサービスを利用することもできません。

また、利用者によって端末やブラウザ、認証方法、エラーの状況などが異なるため、FAQを読んでも解決できないケースがあります。

今回の「SBI証券チャットサポート」は、そうした利用者の状況に応じて、生成AIが対話を通じて問題解決を支援する仕組みです。

さらに、AIだけでは解決できない場合には、有人チャットや電話予約など、適切なサポート窓口へ案内します。

利用者にとって重要なのは、AIが回答することではなく、困っている問題を解決し、サービスを利用できる状態に戻ることです。

これまでのチャットボットと何が違うのか

従来のチャットボットでは、あらかじめ用意された選択肢を選んだり、FAQの中から該当する回答を探したりする方式が一般的でした。

これらは、よくある質問に対して効率よく回答できる一方、利用者が想定外の質問をした場合や、複数の条件が関係する問題では、解決につながらないこともあります。

生成AIを活用したチャットボットでは、利用者が普段使っている言葉で質問でき、対話を重ねながら状況を整理できる点が特徴です。

ただし、生成AIを搭載するだけで、すべての問題が解決できるわけではありません。

回答に必要な情報が整備されていなかったり、個別の契約情報や本人確認が必要だったりする場合には、AIだけでは対応できないこともあります。

そのため、今回のSBI証券のように、AIで対応する範囲と、人間が対応する範囲を適切につなぐ設計が重要になります。

なお、SBI証券は2026年9月にも生成AIを活用したチャットサービスの提供を発表しています。今回の取り組みは、生成AIチャットの初導入というよりも、ログイン時の問題解決と有人対応への接続を強化した事例として捉えるのが適切です。

ECサイトにもある「顧客が困る瞬間」

この考え方は、ECサイトにも十分応用できるのではないでしょうか。

例えば、ネットショッピングでは次のような場面が考えられます。

1. 購入手続きの途中で困っている

「クレジットカード決済が完了しない」「クーポンが適用されない」「配送先を変更できない」といった問題です。

こうしたトラブルは購入を諦める原因にもなります。

単に問い合わせページへのリンクを表示するのではなく、購入手続きの途中でAIが状況を確認し、解決方法を案内できれば、購入までの負担を減らせる可能性があります。

2. 注文後に変更したいことがある

「注文した商品の色を変更したい」「配送日時を変更したい」「贈り物なので納品書を入れないでほしい」といった問い合わせです。

注文内容や発送状況によって対応方法が異なるため、一般的なFAQでは解決しにくい場合があります。

AIが状況を整理し、対応可能な変更方法を案内したり、担当者に必要な情報を引き継いだりできれば、顧客とスタッフ双方の負担を軽減できるでしょう。

3. 商品選びで迷っている

チャットボットは、問い合わせ対応だけに使うものではありません。

例えば、「どの商品を選べばよいかわからない」という場面にも活用できる可能性があります。

食品なら、用途や贈る相手、予算などを確認して商品を提案する。

アパレルなら、サイズや好み、利用シーンをもとに商品を絞り込む。

こうした使い方は、実店舗の販売員による接客に近い体験です。

AIチャットは、単に問い合わせを処理するだけでなく、商品選びを支援する接客手段としても考えられます。

4. 配送や返品について不安がある

「注文した商品はいつ届くのか」「返品できるのか」「交換する場合はどうすればよいのか」といった問い合わせも、EC運営では多く見られます。

配送状況や返品条件などの情報を適切に連携できれば、AIが顧客ごとの状況に応じて案内することも考えられます。

ただし、個別の注文情報を扱う場合には、本人確認やアクセス権限の管理が必要です。

チャットボットを設置する場所も重要

AIチャットボットを導入する際、Webサイトの右下に常時表示する方式がよく使われています。

もちろん、いつでも質問できることにはメリットがあります。

しかし、すべてのページで同じように表示することが、最も効果的とは限りません。

例えば、購入手続きの途中でエラーが発生した際にサポートを案内する、配送に関するページでは配送関連の質問を優先するなど、ページや利用状況に合わせた支援方法も考えられます。

また、モバイル端末ではチャット画面が商品情報や購入ボタンを隠してしまう場合もあります。

そのため、どのタイミングで、どのような案内を表示するのが利用者にとって自然なのかという視点が大切です。

チャットボットを目立たせることよりも、顧客が必要とする場面で、必要な支援を届けることが重要なのではないでしょうか。

AIチャットボット導入前に考えたいこと

中小企業がAIチャットボットを導入する際には、まず顧客から寄せられている問い合わせを整理することをおすすめします。

問い合わせ内容を分析すると、特定の画面や手続きに関する質問が集中していることがあります。

そのような場合は、チャットボットを導入する以前に、Webサイトの説明文や操作方法を改善することで、問題を解消できる可能性もあります。

一方、個別の状況によって案内が変わる問い合わせや、複数の情報を確認する必要がある質問では、生成AIによる対話が役立つかもしれません。

また、すべてをAIで完結させようとするのではなく、有人対応への引き継ぎも重要です。

例えば、次のような観点で効果を確認することが考えられます。

単にAIの回答件数を増やすのではなく、顧客の問題が解決したかどうかを評価することが大切です。

AI導入の前に、顧客の困りごとを見つける

今回のSBI証券の取り組みは、AIの技術そのものよりも、活用する場面の選び方が印象的でした。

チャットボットは以前から存在する技術ですが、生成AIによって対応できる質問の幅が広がり、より自然な対話が可能になってきています。

しかし、どれほど高性能なAIでも、顧客が必要としていない場面で使われていては、その価値を十分に発揮できません。

逆に、比較的シンプルな仕組みであっても、顧客が困っている場面に適切に配置されていれば、大きな改善につながる可能性があります。

私たちがWeb制作やECサイトの運営支援を行う中でも、問い合わせが多いこと自体が問題なのではなく、その背景にWebサイトの使いにくさや、情報のわかりにくさが隠れているケースがあります。

AIを導入する前に、なぜ顧客が問い合わせる必要があるのか、どこで迷っているのかを考えることが大切です。

そして、顧客自身で解決できる問題はわかりやすいWebサイトで解決し、状況に応じた案内が必要な場面ではAIを活用し、個別の判断や配慮が必要な場合は人間が対応する。

そのように役割を整理することで、顧客にとっても企業にとっても、より良い仕組みを作れるのではないでしょうか。

AIの導入で重要なのは、何を自動化できるかだけでなく、誰のどんな不便を解消できるかという視点です。

当社でも、Web制作やEC運営支援、AI導入・活用支援を通じて、技術を導入すること自体を目的とせず、利用者の体験と企業の業務改善の両方につながる活用を考えていきたいと思います。


参考情報

※本記事は2026年11月3日時点の公開情報をもとに作成しています。ECサイトでの活用例はSBI証券の導入実績ではなく、一般的なEC業務を踏まえた今後の活用可能性についての考察です。

投稿日:2026年11月3日